読者からの手紙
看護を愛して
北原 政子
1
1千葉県保健婦専門学院
pp.9-11
発行日 1965年10月10日
Published Date 1965/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203471
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分身を抱いて
出産の前日まで私は本を読いでいた.そのころ柴田翔の「されどわれらが日々一」に感銘していた.芥川賞を受賞した作者が今後発展してゆくであろう,未知な魅力にひかれて私の中に,ある種の野心を感じた.そうして心の一部で子どもの出生を負担に思っていた.
苦痛を経て出生してきた私の子ども,24時間後には黄疸があらわれて小さな口を開けて啼泣していた.くちびるはかさかさだった.その分身を抱いた時,初めて,この小さな命を愛しく思った.出産前日まで持っていた,野心のすべてを棄てて,育てよう,育てなければならないと思った.女と生まれて一番しあわせな時であった.
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