読者からの手紙
技術の確実性を生かしたい
岩下 佐和子
pp.9
発行日 1962年10月10日
Published Date 1962/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202660
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この頃,しばしば「疎外」という言葉が使われます.昔は個人個人が,こう生活したいと思うことと,現実の生活が一致していたのが,現代の複雑な組織と分業の中では,思うことができず,したくないことをしなければならないために欲求不満に落ち入ることだと考えます.よく例に出ますが,チャップリンの映画に,人間が機械の一部品にされたり,機械のリズムに追われる悲劇を描いたものがありました.ネジやハンダ付けをベルトコンベアーの流れに遅れないよう,絶えず注意して進めていかなくてはならないということなどは映画の現実版でしよう.書類をつくつたり,組織運営を考えたり,議論していく仕事も面白いかもしれませんが,匠代の組織力・規範は大勢〈だいぜい〉として個人の興味・思考を越えた在存であるに違いありません.種々の職業生活が非人間的になり,「疎外」は,そこここにひそんでいるようです.
個人個人の興味と仕事の価値付けは,十人十色でしようが,私は種々の仕事の中で,人間と人間が直接ふれあつていく仕事が最も人間的だと思います.
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