講座
保健活動の原則について(2)
田中 恒男
1
1東大医学部衛生看護学科
pp.36-40
発行日 1961年6月10日
Published Date 1961/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202345
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(3)
前号にのべたように,正しい判断のもとに,仕事を計画し,実践してゆくなら,地区の問題はかなり容易に解決の方向にすすんでゆくことであろう.ただ,問題の解決は,かなり多く経済的・社会的な基盤の上にたつて始めて可能となる場合がある.こうしたとき「社会の変革がなされなければ,公衆衛生の浸透はあり得ない」というような声をきくこともある.たしかにそれは一部の問題については事実であろう.むずかしい例をひくまでもなく,成人病の予防にしても相当の予算と人手をくい,しかも集団検診で発見された患者は,多額の医療費の補助を必要としよう.また予防活動自体の進展も,農村的地域ではその低地域性,社会心理的離反傾向,封建遺制にもとづく二重構造性などによつて,大きな壁につきあたる可能性も少ないとはいえない.たしかにその壁につきあたつたまま,もうマンネリズム化してしまつた公衆衛生活動も少なくないのである.しかし岡山県の実例もあるように,社会条件が変らなくてもできる公衆衛生活動も少なくない.岡山に限らず,多くの地道な例は,地区民の協力と理解があれば,その壁をつきやぶつてゆくことも,不可能ではないことを示してくれる.ただこんなことを今更いうのは,ふつうの予防活動でも,一応地区民の協力がえられたように見えても,実は幹部だけが力を入れて,むりやり他の人たちをうこかしていたという例もないではないからである.
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