特集 患者の情緒的要求と看護
患者の情動的社会的要求
山本 武夫
1
1国立東京療養所
pp.14-17
発行日 1961年6月10日
Published Date 1961/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202340
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1.人は部分で生きてはいない
文豪トルストイの作品に(生ける屍)という戯曲があります.(屍)ならば死んでいるはずですが,この屍は生きている,つまり,からだは生きているが,人間としては死んでいる,(人間)を失つたからだがただ生きている,という意味です.
手術台のうえに横たわつている患者,いま彼は麻酔にかかつているからなんにもわからない.からだは普通に働いている.そのからだに医師は手術を施している.麻酔がきいているあいだは,彼には喜びも悲しみも,不安も恐怖もありません.彼は妻や子供のことも考えませんし,税金のこと,選挙のこと,忘年会のことも考えません.このばあい,この人はただのからだです.これが一時的のものではなく,こんな状態がいつまでもつづくものとしたらたいへんです.文字どおりの(生ける屍)です.
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