特集 看護婦の勤務と生活の合理化
第4部 生活を豊かにするために
良い文章を書く秘訣
長谷川 泉
1
1東大
pp.162-164
発行日 1961年6月15日
Published Date 1961/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912572
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
話しことばと書きことば
昔なら,さしずめ,口語文と文語文というところである。口語文は,話すように書く文でやさしい。文語文は,書くように,書く文で,むずかしい。そして,たんに,文の難易があるというだけでなしに,文の構成もちがつている。昔は,文語文というものが,とくべつに学ばれた。文章を書くばあいには,文章を書くという意識が強く働き,ふだんとは違つた心がまえになつたからである。そこから,美文意識が生まれた。つまり,文章を飾つて,時にはうそも書いたのである。今では白髪三千丈式の文章は,はやらないことになつている。それはありふれて,かたにはまつており,新鮮味がなく,相手に感興をもたらさないからである。だいいち,ちかごろの若い世代の人たちに聞かせたら,三千丈なんて白髪は,あるはずがないし,そのおおげさな表現だけで,けらけらと笑い出してしまうであろう。
ちかごろの文章は,ありのままに,かざらずに,お互にお喋りをするような気軽な調子で書けばよいのである。わざと,ことばを飾つたり,むつかしくしたり,もつてまわつた言い方をしたりするのは斥けられる。要するに達意の文が重んぜちれるようになつたのである。時代の相違である。話しことばで書けばよい。そうはつきりと決心をしてしまえば,まことに気楽で,文をつづることがちつともおつくうではなくなる。まずそこから始めよう。
Copyright © 1961, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.