講座
最近の疫学について
児玉 威
1
1神奈川県衛生研究所
pp.16-20
発行日 1957年7月10日
Published Date 1957/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201446
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はじめに
1955年から1956年にかけて日本各地に流行性腎炎の発生があり問題となつたが,直ちに調査研究班が組織され,医学の各分野から本症の発生の機序について追及された.この場合,臨床医は患者の臨床症状について観察し,細菌学者は患者咽頭から溶血レンサ球菌を分離して観察し,疫学者は集団について本症の発生機序を観察し,それらの観察の結果を綜合して本症がA群レンサ球菌感染症に続発する疾患であることを確認した.この場合臨床医学ではその観察の単位は個体(患者1人1人)であるが,基礎医学(細菌学)では観察の単位は個体以下(細菌体)であり,疫学ではその観察の単位が人間集団(小学校,市町村など)である.即ち疫学ではその観察の単位が人間集団であるところに他の2者と基盤的相異がある.この3者の間の観察の単位が相異しているため,臨床医学では急性腎炎患者について先行疾患である猩紅熱や扁桃炎との関係や疾患の経過を調べ,基礎医学では病因である溶連菌の血清学的分類や患者血液中の抗体の消長を調べ,疫学では腎炎発生の基礎疾患である溶連菌感染症の流行の様相や更にその蔭に存在する保菌者の流行波を調査する等,各々調査の方法や手技を異にするが,急性腎炎の流行がどうして起り,またどうして終熄したかを明にして有効な予防対策を見出さうという目的には何等変りがない.
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