特集 上手な話し方
リクリエーションとしての話
長谷川 泉
1,2
1医学書院編集部
2学習院大学
pp.104-109
発行日 1957年5月10日
Published Date 1957/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201419
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1.否定的なことばのいましめ
「口と財布はしめるが得」――ということばがある.また「ものいえば唇寒し秋の風」という句もある.さて,このようにしてひろつて見ると,なんと私たちの周囲には,ことばについてのいましめが多いことであろう.しかも,それらが,いずれも積極的にものをいうことをすすめるのではなく,きわめて消極的な否定面だけをとりあげているのが,やたらにめだつことに気がつくであろう.
例をあげてみよう.きりがないとまではゆかないかもしれないが,心おぼえをあげていつただけでもかなりありそうだ.「口は禍のもと」だとか「舌は禍の根」だとかいうのは同じ着想である.「一寸の舌に五尺の身を損ず」というのや「口あいて人に食わるる柘榴かな」というのは同じような消極的な観点から出たいましめのことばである.ちよつと,しやれたところでは「雉子も鳴かずばうたれまい」とか,「刃の疵は直せるが,言の疵は直せない」というのもある.「駟馬も追い難し」ということになると,ちよつと註訳がいる.うつかり喋つてしまつた失策は四頭だての馬で追いかけても,もはや追いつくものではない,といつたぐらいの意味である.
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