特集 上手な話し方
子供への話し方
江上 フジ
1
1NHKラジオ局婦人課
pp.19-23
発行日 1957年5月10日
Published Date 1957/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201398
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もう20数年も前のことです.生まれて初めてマイクを通じて幼児にお話をした時の事を,今でも鮮やかに思い出します.当時NHKの大阪の放送局では幼児の時間が第2放送で毎日10分間つつ放送されていました.大てい1人の放送者が3日間づつ担当していました.殆どが創作か,脚色のもので,私は「ポチ」と云う童謡を主題にして馴れない童話を作り,放送前夜はおそくまで離れの茶室を締切つて声を出して練習をし,時間を計り胸をどきつかせて朝早くスタジオに出かけました.いざマイクの前に座ると頭はカーッとのぼせ上り,胸ははりさけるばかりに鼓動が打ち,無我夢中で放送しました.が何とあと味の悪いことでしよう.本当に泣き出したい思いです.ところが2日目の午後,私の所に1枚のハガキが速達で届きました.一聴取者よりとして,あなたの放送をききました.大変お上手です.お声も美しい.けれど巧く演じてはおられますが,残念ながら幼児に話しかけていない,何故あなたは託児所で毎日子供に話しているように,子供をひざの上にだいた気持でお話をなさらないのですか,と.この1枚のハガキで私は目が覚める思いがしました.最終日のお話は上手であつたか,下手であつたか,私は知りません.けれども私は何かほのぼのとした気持で放送を終ることが出来ました.この放送がきつかけになり私は長い間放送の仕事をするようになつたのです.
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