特集 病院に残る古きもの
病院に残る古きもの・2
医師の話し方
守屋 博
1
1順天堂医院管理部
pp.33
発行日 1970年12月1日
Published Date 1970/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541204177
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陰語というものがある.特定の業種に属するものが,第三者にわからぬように,意志を通ずるために発明されたものである.そのいちばん著明なものは,暴力団や香具師の間に用いられているものである.‘デカ’とか‘スケ’などのことばは,一般化して,今では本来の目的を失っているが,本職の連中はまったくしろうとには通じぬことばを使っている.彼らにしてみると,それが一種のパスポートであって,それが使えないと本物でないことを見破られるのである.なかには本職でないしろうとでそんな特殊語が使えることが,なんとなくカッコいいとして得意になって使うこともある.
陰語には,実用性と虚色性とある.医師の使うドイツ語まじりの特有の会話は,そのどちらであろうか.むろん,医師の陰語のうちには,患者に聞かせたくないものもある.しかし,患者にしてみると,自分の目の前で自分の運命に関することをベラベラと,しかも単なる研究的興味で話されることは,なににもまして気になるものである.しかもたまには,ドイツ語のわかる患者もいないわけではないので,たまに耳にはいったドイツ語から,思いもかけぬ想像をして,すっかり悲観してしまうことがなきにしもあらずである.こんな会話は,患者の前でないところで行なうのが医師としてのエチケットではあるまいか.
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