今月の言葉
文化財
pp.5
発行日 1956年12月10日
Published Date 1956/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201306
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ラヂオのスイツチと共に流れ出て来たニユースは,延歴寺の焼けた報道であつた.アッ! 又やけた! と瞬間に思つた.海抜800米を越える比叡山の高地のことであるし,消火設備は何もないので,大津市からケーブルカーで山型消防自動車をえつちら運びあげたが,十分に消火活動は出来なかつたといつている.炎々ともえあがる大茄らんの前で,水鉄砲位の力しかなかつたのではなかろうかと想像されて,馬鹿ばかしくて腹が立つてしまつた.何百年もの大昔に,設営された由緒ある天台宗の総本山であり,数数の国宝も文化財もまもられて来ていたのに,心ない者の不注意からか,何か不心得者の故意の仕業か,むざむざと,灰滅に帰さしてしまうなんて,何という愚かしいことであろうか,損害は約6億円ということだが,金銭をもつてはかり難い重要な文化財なのだから,今後絶対に手にもどらないのに.惜しいとか,残念とかいう気持をこえて,いきどおりを覚える事件である.さきには金閣寺を放火で失い,又,失火で法隆寺もやいてしまつた,其の他新聞によれば,戦後10年の間に出雲大社・松山城・目黒の不動尊・東本願寺・阿波国文庫・京都小御所など,十数件に及ぶという,それらをよんで新に思いを深めさせられる.
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