特集 少子化時代への対応
子育ては文化である
松岡 悦子
1
1旭川医科大学社会学教室
pp.403-406
発行日 1995年6月15日
Published Date 1995/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401901281
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子育てについて書くとなると,どうしても自分の最初の子育てを思い出してしまう.それほど初めての母親にとって,最初の子どもの出現はショッキングで「だまされた思い」すらしたものだ.隣にいる生まれたばかりの子どもを見て「この人どこから来たんだろう」,「これを今から育てていくの?」,「私はとんでもないものを産んでしまったんじゃないかしら」と感じた出産直後の違和感.本に書かれてある「産後はゆっくり休養しましょう」という言葉を信じて,産後は寝て暮らそうと期待していた私は,赤ん坊が夜中にも起きると知って,まさかと思った.それなら,「産後はゆっくり寝られません」と書いて欲しかった.妊娠・出産までは生き物であれば放っておいてもできてしまうが,その後の育児は放っておくわけにはいかない,とても文化的なできごとである.なぜなら人はその社会・文化のなかで育ち,その文化を担う人になるのであり,育てるほうにしてもまわりと同じように,あるいは昔からやってきたように育てるからだ.女性は産めばたちどころに母性本能が芽生えて,赤ん坊を見ればたちどころに扱えるようになるのなら,育児不安やノイローゼは起こらないはずだが,現実には私も含めて最初の子育ては加減のわからないことだらけである.
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