講座
医薬分業の話
北村 和
pp.64-65
発行日 1956年1月10日
Published Date 1956/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201105
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医薬分業とは,ごくひと口にいうと,医者と薬剤師の仕事の分担をはつきりさせ,患者の診察は医者がやり,調剤は薬剤師が専門にやるというシステムにしようということです.というと,ごくあたりまえのことのようですが,わが国では今まで,必ずしもこのシステムがきちんと行われてはいないため,いろいろと難しい問題が起つてくるのです.すなわち,今から80年あまり前の明治7年に,既に,諸外国の例にならつて医薬分業の考え方を採用してはいたものの,薬剤師の数が少く,また薬局の普及が不十分である等の事情からその後の法律で,医師が自分の診療する患者に対しては薬を盛つてもよいという例外を認めたまま,現在に至つているからです.
ですから,わが国では,これまで,病気になつてお医者にかかると,必ずといつてよいほど,医者が自分で薬をつくつてくれます.法律によると,薬のかわりに医者から処方せんを受けとり,薬局で調剤してもらうこともできるのですが,そんなことをする患者はまずいません.このように医者は患者を診察するだけでなく,薬を売つて生活していますし,患者の方も,医者に払う報酬は,病気を治してくれた医者の「技術料」というより,むしろ,調合してもらつた「薬代」だと心得ています.一方,薬剤師の方も,患者がもつて来る処方せんはごく僅かですから,しぜん,店にある風邪薬やら,胃腸薬やらつまり売薬を売つて生計を立てている有様です.
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