今月におくる言葉
感謝の生活
pp.5
発行日 1955年7月10日
Published Date 1955/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200977
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聖パウロは三つの刺が与えられていたといわれています.ヘレンケラー女史は,三重苦の聖女として知られています.が,ここに誰にも知られる事なくして,10年もの長い年月を或療養所にねたきりのK子さんはいくつの刺を与えられていることになるのでしよう……肺結核・腹膜炎・骨髄炎・カリエス・腸及び咽喉結核・腎・膀胱結核等に,何重苦もの刺をもつているK子さんの斗病精神の如何に美しく,又,如何にけんきよであることか,そして,それ程の苦しみの生活の連続の中にも,何と明るく,そして感謝にみちた思いで日々を過していられるかについては,私共凡人には,到底考えつかない尊いもののあることを教えられます.此のK子さんをよろこぼせた最近の出来ごとというのは,久し振りにレントゲン室に胸の写真をとりにいつて,9年ぶりで早春の風に吹かれたら白い担送車に仰臥して青空を仰いだという事であつたということです."あんなにも美しい空があつたかと感動してしまいました"といわれて,はじめて自分も,春の空の明るさを意識するような始末です.通りすがりの石垣の間から芽を出している草に,こよなくうれしさと愛着を覚えて担送車の上から手をのばしてつみとつたということもききました.
病床にある人の,感傷といつてしまつてはいけない.そこには,肉体を傷けられることによつて,より深く自分をけんきよにした人間の正しい姿があらわれているのだと思います.
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