講座
生きた統計の使い方
菊地 正一
1
1東京大学醫学部衛生学教室
pp.32-36
発行日 1954年6月10日
Published Date 1954/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200752
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
2月だというのに東京では気温が20℃をこえたときけば,東京に住む人には道理で暖がすぎるわけだと思い,地方の人でも多数の人達は東京の冬はしては珍しい暖かさだと思うに違いない.20℃という気温に対して人々がこのように判断が下せるのは,この数字と比較できる材料をもつている爲である.言い換えれば,人々は大体冬の気温というものはこの位が普通だというめやすが頭の中にあり,これと比較することによつて20℃をこえる気温について判断を下しているのである.
厚生省の発表によると昭和27年の我国の死亡数は764,465人であつて粗死亡率は8.9である.もしもこの数字だけを見せられたこならば,この方面に関心と知識がある人でない限り,どのような判断を下してよいか当惑するだろう.多くの人々は,頭の中に,或は自分の周囲にこれと比較できる材料を持合せていないからである.そこでこういう人々はこの数字を見て,我国では昭和27年の1年間に764,465人の人が死んで行つたこと,割合にすれば大凡112人に1人の割で死んだことになるということ,これだけの事実しか知ることが出来ないのである.このように統計値というものは,それだけ独立して示されたこのでは殆ど意味のないものであつて,他の値との比較によつてはじめてそれのもつ内容が明かとなるのであり,その比較が巧である程,比較する爲の材料が豊富である程,同じ統計値がより多くのことを物語るのである.
Copyright © 1954, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.