世界の波
MSA援助に麥の抱き合せ
末松 満
1
1朝日新聞東京本社
pp.52-53
発行日 1954年4月10日
Published Date 1954/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200722
- 有料閲覧
- 文献概要
「木によつて魚を求むるがごとし」と孟子が言つた.軍事援助のために立法されたMSA(相互安全保障法)によつて経済援助を求めるのは,まさに孟子の言葉どおりだ.去年の秋,わがワンマンの特使池田勇人氏がアメリカへまかり出で「MSAによつて経済援助を頂戴したい」と申入れた時にはアメリカの方でおどろいたらしい.池田さんが「そこをなんとか」とねばりだしたので,アメリカは「麥ならあげよう」と答えた.なにしろ「貧乏人は麥を食え」と放言して有名になつた池田さんのことだから,麥とさえきけば勇み立つ.「有難き仕合せ」とばかりに麥をかついで帰ることにした.その麥5,000万ドル分(小麥350万石,大麥70万石)が,いよいよ日本へ到着する春とはなつた.
アメリカ人は1年に小麥を1億4,000万石くらい食えばよいのに,去年は2億3,400万石も收穫された.一昨年はもつと多かつたのだから,アメリカの倉という倉は麥だらけ,これ以上あまれば燒き捨てなければならないほどだ.去年は500万石ばかりをインドの隣国パキスタンへ贈呈したがアメリカ国民の中から文句がついた.「いくらあまつているからとて,無料進呈はきこえませぬ」というのだ.そこで小麥の売り先きを考えたのだが,アメリカ小麥はカナダのものより1割5分も高いから買手がない.とうとう抱き合せ,押し売りをやることになり,MSAの法律の中に次のような一項を追加した.
Copyright © 1954, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.