隨筆
殘された人々
松岡 洋子
pp.41-43
発行日 1953年7月10日
Published Date 1953/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200552
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トルコの東南アダナという町にアメリカの大学時代の友人が医者をしているので今度歸國の途上訪ねてみることにした.主都アンカラからは週に2回バグダツト行の国際列車がここを通る他は汽車の便は惡いので毎朝6時にアンカラを出るバスに乘つてアダナに向つた.
前と後に入口のあるこのバスは眞中に通路があるわけではなく,5人腰かけられる席が端から端までつまつているので,一たん中に入つたら身動きも出来ない仕末,おまけに窓も完全にしまらぬような古バスだつたので半ば砂漠の土地を數時間も走つている間には身体中砂とほこりをかぶり,舌はざらざらして聲も出ない程であつた.木もみあたらないこの平原で,らくだをひきながら歩いている百姓をみた時には,歐州にいた時よりも日本に遠くなつた感じであつた.
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