講座
個人と集団
詑摩 武俊
1
1東大文学部心理学教室
pp.22-25
発行日 1953年3月10日
Published Date 1953/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200472
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女学校時代の同窓会が久し振りにひらかれ新調の和服を着て出掛けて行つたところが,集つている数10人の旧友は全部洋服であつたという場合を考えて見よう.このような時には普通,余程自分の和服姿に自信のある人でない限り,たとえその着物が相当高価なものであつても「あゝ洋服を着てくればよかった……」と思い,楽しかるべき同窓会の雰囲気にも何かしら満されないものを覚えるであろう.
このような例は勿論,他にも求められる.例えば,何人かの人か集まつて上映されたばかりの映画の批判をし,いずれも,観る角度は異なつて居ても皆詰らなかったという点で一致してしまう.こんな場合「いいえ,大変面白かつた.私はここで感激したわ」などと話すのに相当の勇気を必要とする.ことさらに他人の注目を集め,自分が話題の中心になりたいとのみ願つているヒステリー性性格の持主でない限り,このように大勢の人と逆の意見を発表する事には,何等かの意味での抵抗を感ずるものなのである.
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