講座
農村食の欠陷
矢口 光子
1
1農林省生活改善課
pp.13-16
発行日 1953年1月10日
Published Date 1953/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200430
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ばつかり食物生活
私が千葉県の開拓地で農業をしていた頃,従来の都会生活に較べて,農家の人たちが随分大食なのにおどろきました.しかし,私自身も相当の量を平げたものでした.俄か百性の辛さは開拓地のこととて農閑期がなく,重労働の上に苦しい資金の中から農機具を買つたり,折角收穫した作物はほとんど供出してしまいます.ですから副食はつい,ばつかり食となつてしまいます・甘藷の時期には主食をも兼ねて芋ばつかり,12月からは大根ばつかり,春先は菜つぱばつかり,というわけです.それでも開拓地の人たちは.都会にいた人が多いので,既村の人より貧乏でも貧乏なりに,栄養に気をつけ,農繁期には油をつかつたり,偏食にならぬように苦心したものでした.ところが開拓地よりも数段余裕のある既成農家は,依然としてばつかり食でありました.こゝに農村生活の問題がひそんでおります.
村の医院も,近接の町の医院も,農繁期が終るとどつと繁昌するといわれます.つまり病気も我慢できるものは農繁期の間はともかく放っておいて,農閑期までまつのです.そして病気を無理しても,一俵でもよけいに收穫をふやしたいわけです.この気持は農村生活を何百年も代々続けてきたればこそ,根強く残つている生活習慣ではありましよう.
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