東西詞華集
嘆—三木露風
長谷川 泉
pp.30-31
発行日 1952年2月10日
Published Date 1952/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200229
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戀の傷痕をうたつた文藝は古今東西に極めて多い。むしろ極言するならば,何等かの意味で失戀の傷手をテーマとした作品がその大半を占めていると言つても過言ではないであろう。我國においては世界的古典として誇るべき「源氏物語」にしてからが主人公光源氏が,數々の懸愛遍歴の後,自分の過去の行いを反省し道心をもよおす深刻なモメントが作品の主軸をなしているのである。フイナーレにおける宇治十帖の薫大將の所行にしても,道ならぬ戀を強行しようとした失戀の反省が終幕を彩つているのである。ゲーテの有名な「若きウエルテルの惱み」にしても,その影響によつてウエルテル患者を多く出した程の影響を持つたのはロツテを失つたウエルテルの失戀の苦惱が,文豪ゲーテの麗筆によつて哀切きわまりなく描破されたからである。
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