主張
自由
pp.8
発行日 1951年11月10日
Published Date 1951/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200169
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軒先に吊るしてある虫籠の中でスイッチョがしきりに鳴いいる。狹いきゆうくつな籠の中でも我が世の秋を誰はゞかることなく聲の限りに謳歌しているその樣に,フトねたましさを覺える。言い度い事もよう言えなかつたり,思う事も口に出來ない人間世界のきゆうくつさ,複雑さ,腹ふくるゝわざとは知り乍ら敢て口をつぐまなくてはならないことのどれ程多い事だろう,言論は自由になつたはずなのに,と言いたくなる事もあるが,この邊はそう簡單に解決はつかない。船でニューク灣を入つていく岸壁こ近く小島があつて,其處に巨大な女神の像が右手に燈を高々とかゝげて嚴然と立つている。これが有名な「自由の女神」である。自由の國アメリカを端的に物語る象徴の一つである。自由は民主々義の母體自由の思想は民主的考えの基磐である。過去に於ける日本では,國民の言論も行動も思想までも統制し,強制的に一つの考え方に方向ずけようと努力した時代もあつた。そしてそれは決して遠い昔の事ではない,從つて,現在民主日本として再生して以來,これらは凡て民主的基磐の上に組み直され,言論,行動,勿論思想も全ておのがじし自由にあつてよい,いやあるべきであるという事になつたのであるが,さて,そんな時代が來てみて果して實際の動きはどうなつているだろうか。自由民主々義についてあゝでもない,こうでもないと理論倒れがしていはしないだろうか。
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