今月の言薬
自由?
pp.5
発行日 1956年4月10日
Published Date 1956/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201146
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景勝をもつてほこる瀬戸内海の,国立公園のうち,いくつかある島々の一つ長島に,凡そこの周囲の美しい天然の惠みとはかけ違つて,「美」にそむく病,癩の患者のための天国がある.国立癩療養所,長島愛生園の1700人の患者と,その世話に献身する200人余の職員とその家族は,島の中央の山の上の平和の鐘の音にあけくれて25年になるという.園長の光田健輔先生の偉業は,その道の権威としてあまりにも有名であるが,園長を扶けて照る日,曇る日,あらしの夜,22年の婦長生活をつづけている伊勢総婦長のかくれた功績を知つている人は少いと思う.淡々として多くを語らず,常に面に微笑を失わない.1700人の患者の一人一人のことを凡て理解し心得ている.心と体をまもる母親である.深く省みられなかつた患者への看護も,2年前から三交代制に整備され,ととのえられた病棟で,看護婦による看護が実施されるようになるまでの長い歴史をつづる尊い姿である.この総婦長のもとに,思いを同じくする若い看護婦達が,夏の暑い日も,手首までの予防衣,ズボン姿に大きなマスクをつけて,重症患者の看護に余念がないのだ.
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