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先驅者の犧牲
pp.10
発行日 1951年5月10日
Published Date 1951/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200078
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何れの方面でも未知の境界に踏み込む先驅者には大なり小なりの犧牲があるものです。その犧牲は精神的の場合も,肉體的の場合もあります。又兩者共に拂わせられる場合もあるでしよう。保健婦と云う仕事は日本では全く新しい分野として開拓されるものです。從つてそこにも必ず種々の犧牲が拂れていると思います。そこで最近科學研究方面で起つたこの例を紹介しましよう
原子核物理學は極めて新しい學問で未知の點が多數にあります。又一方原子核破壞は原子爆彈さえも造り得る程の強いエネルギーを放出する危險なものです。又それに附隨する種々の研究にも種々の未知且つ豫測されない危險があり得るのです。これ等の研究に携さわつている學者には知らない裡にその害を被つた人々が段々出て来ています。米國カリフォルニア州バークレー研究所で1942年以來原子核物理學並に原子爆彈製造に關する研究をしていたガードナーと云う少壯有望な物理學者がありました。同氏はウラニウム原子核の分裂を起す中性子に密接な關係のあるベリリウムと云う元素を取扱つておつて,その元素の酸化物の粉末を研究中に度々吸い込むことがありました。しかもこの時分には誰れもベリリウムの粉末を吸入すると人體殊に肺臟を害すると云うことを知りませんでした。氏はその研究開始後3年目の1945年ころから疲勞や呼吸促迫を感ずる樣になりました。そこでレ線檢査をした結果兩肺の組織に継纖維性硬化が起つているのが認められました。
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