連載 ニュースウォーク・67
「医療費リストラ」叫んでも
白井 正夫
1
1元朝日新聞編集委員
pp.1000-1001
発行日 2003年10月1日
Published Date 2003/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662100189
- 有料閲覧
- 文献概要
24年の生涯を貧困のうちに閉じた作家,樋口一葉の棺が東京・本郷の借家から築地本願寺まで担がれたのは,明治29年11月25日である。曇り空のもと,10数人の寂しい葬列は水道橋,一つ橋,丸の内,有楽町から銀座を抜けた。香典帳には森鴎外,幸田露伴,泉鏡花の名がみえたが,貧しさゆえのみすぼらしい葬式に人を呼べなかった,と伝わっている。
その一葉の肖像が5000円という高額紙幣にデザインされるのは,なんという皮肉だろうか。そんなことを思いながら20年ぶりにデザインが一新される1万円,5000円,1000円札の印刷が7月末から国立印刷局滝野川工場(東京)で始まったという記事を読んだ。印刷開始式で始動ボタンを押した塩川財務相は,「これで経済効果も見込まれ,気分も一新」と意気込んでいたという。不況もこれだけ続くと,何もかも景気と関連づけてしまい,女流作家の貧困などには思い至らない。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.