特集 回復意欲を失った人々への働きかけ
患者の前ではかける言葉を失ってしまう
大熊 紀代子
1
,
上田 規子
2
1神奈川県立成人病センター
2神奈川県立成人病センター病棟
pp.1107-1111
発行日 1982年10月1日
Published Date 1982/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922863
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はじめに
連日消えることのない痛み.腹の底から込み上げてくる吐き気,食べたくない,だるい,身の置きどころがない,お腹がはる.次第に腹水がたまり,息苦しくなる.尿が出ない.そして痩せていく自分を自覚し,夜眠れない日が続く.不安と苦しみの中に閉じ込められた病気との闘いに疲れ果てた時,‘看護婦さん,私もうこれ以上頑張れない’との言葉がもれ,私たちはかける言葉をも失ってしまう.
まもなく70歳を迎えるOさんは,鎖骨下静脈に中心静脈栄養カテーテル,鼻腔から入った胃チューブの留置,腸瘻から排液チューブの留置,そしてバルンカテーテルにつながれたままの臥床生活で,すでに2か月を経過している.一口含んだ氷片がのどを通るころ,内臓から押し上げるような吐き気に襲われる.音も光も苦しみを増すものになってしまった.目をつぶって眉間にしわを寄せ,ゆがんだ顔つきから,必死にこらえる0さんの苦しみを見る.
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