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■この論文の由来
精神科医療に長く携わってきた者は,特に分裂病の長期転帰を追い続けてきた者は,自分の目指している目標は何なのか,またその間に行われるいろいろな治療法はどこに集約,あるいは統合されるのかを問わないではいられない。いろいろな治療がなぜ必要になるのか,そのことはどのような意味を持つのか,どうして様々の協力者との共同作業が必要になるのか,そしてそのような努力の求められる病気とは,またそれを持つ人たちとはどのような相手なのか,これらの問題が頭から離れない。精神医学の諸分野の研究はそれぞれに目覚ましいが,そして我が国では「××の立場から」という発言は少なくないが,各分野を連ねるための考察は不思議なほどに少ない。精神障害の理解と治療には,生物的―心理的―社会的―人間学的なアプローチが必要であることが常識のように説かれていても,「―」で繋げることの意味が論じられたことはまれである。筆者はこれまで「精神病理と生物学」15),「精神分裂病の生物学的研究と精神病理」16),「三つの治療法」17)という論文を書いて,諸分野の統合に含まれている意味について論じた。そして「精神病は不自由病である」というテーゼが問題を連結する鍵概念になると述べた。しかし自由概念は多義的で政治・社会的意味が強く,土居のいうように日常語でもある。そこで精神医学にかかわる自由問題をあらためて論ずる意味があるのではないかと考えてこの論文を書いた。
分裂病長期転帰の代表的な研究の1つであるローザンヌ・スタディに携わったCiompi, Lはその後biological-socio-psychologicalなアプローチの統合を企てて,「感情論理」affect logicという統合理念を説いている2,3)。そこには拙著「分裂病の治療覚書」17)内の所論に通ずる指摘が少なくない。転帰を長期にわたって調べようとすると,どうも筆者と同じように統合的な理論がほしくなるものらしい。Brenner, HD1),Ciompi, Lらのベルンの人たちは“The Role of Mediating Processes in Understanding and Treating Schizophrenia” 1987というシンポジウムの中で,連関過程とシステム・アプローチを主導的なテーマにしている。アメリカのStrauss, JS11)が提唱している「新力動的精神医学」なるものも似たような発想の上にある。我が国に限らず精神医学ではダイナミックな考え方というと精神病理にお株を奪われた観があるが,元来これは科学史の上では生物学に由来する思潮であることを思い返したい。
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