特集 ターミナルケア—地域での取り組みを中心に
在宅での看とりを振り返って
村松 静子
1
1在宅看護研究センター
pp.1178-1183
発行日 1988年12月1日
Published Date 1988/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922150
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
“思い”だけでは看とれない
当センターでは,昨年の暮れから癌患者の訪問依頼が相次いでいる.「これ以上の治療がなかったら家へ帰りたい」という患者自身の願いと,「どうせダメなら家で生活させたい」という家族の思いが先行して,皆,それぞれ我が家へ帰って来たのである.しかし,その思いだけでは,在宅療養は続けられなかった.絶え間なく押し寄せる癌特有の痛み,引き続き起こる嘔吐,便秘.食べられない,眠れない,立ち上がれない.全身衰弱が進む中で自らの死を考えることが増え,日に日に衰弱していく患者を目の前にして,家族はいたたまれなくなるばかりではなく,「家へ連れて来て,本当に良かったんだろうか」と迷い始めることが多い.
私たち看護婦は癌末期の患者に接すると,「家へ帰れるのは今しかないのではないか」「家族との生活を1日でも長くおくらせてあげたい」「どうせダメなら家族の元へ」等々,家へ帰すのが一番良いと思いがちである.確かに,私自身も病院勤務をしていたころは,同じような思いを持っていた.しかし,今は違う.私は,当然のことながら,在宅療養の必要性,可能性は,患者・家族が中心になって決めることで,家に帰るのが良いという医療者の思い込みで退院を勧めるべきではないと考えるようになったのである.また,在宅療養を患者・家族が希望しても,それを可能にするためには,いくつかの条件が必要であることが分かった.
Copyright © 1988, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.