痛みの臨床・6
痛みの生理学—ゲート・コントロール説を中心に
中島 美知子
1,2
1ニューホープ・ペインセンター
2オリブ山病院ホスピス
pp.1169-1172
発行日 1984年10月1日
Published Date 1984/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661920904
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痛みへの的を射たアプローチ
吉山チエさん(91歳,女性,仮名)は肺線維症の末期で,強い呼吸困難と胸痛を訴えていた.彼女のいる4人部屋を訪問すると,いきなり手招きをする.近づくと手を伸ばして私の腕をつかまえ,哀願するように‘先生,いのち助けてくださいよ!’と訴える.返事を考えつつ,私は老人用の低いベッドに寝ているチエさんのそばに座って,胸や背中をさすっていた.ところがしばらく後,‘先生,いのち助けてくださってありがとうございます’と穏やかな表情で語り,胸痛も治まったのである.
彼女のこの言葉の変化に,私はたいへん驚かされた.私は彼女のそばに座り苦痛のひと時を共にし,痛みの部位をさすっていただけであるが,彼女はそれを‘いのちを助けられた’と表現したのである.このように‘手でさする’という行為のみで痛みが和らぐという経験はだれもがあるであろう.前回あげた胃癌の末期患者も,一切の薬物投与を拒否したため,看護婦は定期的に腹部に手をあてて言葉をかけてさすりながら,そばについた.それによって痛みはかなりの部分おさまっていたのである.
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