いのちの現場で したたかに生きる看護婦を追って・11
カステラとボーナス
長岡 房枝
1
1(株)日本軽金属診療室
pp.1285-1287
発行日 1981年11月1日
Published Date 1981/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661919397
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兄の急病
菊川里子(仮名)さんの兄がフラリと倒れ,意識不明になったのは,1970年1月2日のことだった.彼の奥さんの実家に年始のあいさつに行き,お酒をご馳走になった後,気が進まなかったらしい風呂に入り背広に着替えた直後に倒れたという.36歳だった.
当時菊川さんは24歳で,G県N市にあるM総合病院内科病棟に勤務していた.両親は既に亡くなっていて,兄妹2人だけだから近親者として呼ばれたのは妹の菊川さんだけである.兄の二郎さんは救急車に乗せられず,救急隊員に‘お気の毒ですが,早くご親類の人に会わせなさい.いつ息を引きとるかわからない状態だから’と言われたと言って義姉(兄の妻)は泣いていた.二郎さんは背広をキチンと着て真っ赤な顔をし,綿花を巻いた割り箸を口に突っ込まれて高い鼾(いびき)をかいていた.
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