余白のつぶやき・13
ある歳月
べっしょ ちえこ
pp.885
発行日 1980年8月1日
Published Date 1980/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661919031
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昭和二十二年九月某日。朝まだきの新宿二幸裏。夜汽車の煤で汚れはてた私は、古鞄一つ下げて都電万世橋行きの始発を待っていた。前日の日暮れどき、東北寒村の軽便駅を発ってからまる十二時間の長旅であった。
詰所の前で焚き火をしていた一番電車の乗務員が、「こっちへ来て当たんなよ」と声をかけてくれた。こんな早くから待っている客は私一人である。
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