マイ・オピニオン
体験的患者心理
中尾 アヤコ
1
1千葉労災病院
pp.801
発行日 1978年8月1日
Published Date 1978/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918457
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過日,ある研修会のシンポジウムで“患者中心の看護”がテーマに取り上げられ,私は‘患者の経験をもつ総婦長の立場’から発言の場を与えられた.私は2年ほど前,癌疾患の手術を受け,現在も通院加療中である.そのシンポジウムで私は,看護婦として理解している患者心理と,実際に体験する患者心理とでは,ずいぶん違いがあることを話した.
私が癌の診断をくだされた時,周囲の人は手術に対する心配はないこと,すぐ元気になれることを知人などの例を挙げながら説明してくれた.私はその心遣いをありがたく思いながら,一方には,そんなことは当たり前のことであって,これぐらいのことで大層な事態になってはたまったものではない,という思いもあった.それよりも,その時の私の心を占めていたものは,手術に対する心配でも転移への恐怖でもなく,ひたすら女性として外観を損なわれることへの悲しさであった.だから,いくら‘大丈夫’‘心配ない’と言われても,私の気持ちは少しも‘大丈夫’ではなく‘心配’であった.しかし,手術後は術前の考えとは別の意味でけっこう大層な事態になり,そこで初めて友人や知人の話が私の中に生きてきたのである.
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