ホームヘルパー跳びある記・10
老いのこころ—ある老人の自殺を契機として考える
星 美代子
pp.1070-1072
発行日 1977年10月1日
Published Date 1977/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918247
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山に向かうひっそりした山陰の小径は,小さな谷の流れに突き当たり,径は右手にカーブする.その左手に,草に覆われたあるかなしかの径を少し登ってゆくと,杉木立の下にひっそりとした小さな墓地がある.だれの目にもそれと分かる新しい奥津城(おくつき).色とりどりの花が飾られ,供え物の果実や団子,土の上に椀盛りの飯粒が昨夜の雨にぬれてふやけ,白くこぼれている.私はその前にうずくまって合掌した.
‘Kさん……’心の中で呼びかけると,昨年の11月と今年3月の2回,老人クラブの旅行で房総半島をめぐった時,終始楽しそうにほほ笑んでいたKさん(男性 74歳)の顔が浮かびあがってくる.旅を楽しむ村の老人たち一行80余名は,道中のバスの中ではしゃぎ,マイクを回しては自慢の歌をうたい合い,笑い転げた.
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