なでしこのうた
10年ぶりの再会
塩沢 美代子
pp.125
発行日 1970年12月1日
Published Date 1970/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917713
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ヤッちゃんはお酒が好きである。毎日のように9時10時まで残業になる忙しい仕事から,くたくたになって帰ると,ひとり住まいの気楽な部屋で一杯やっては,ほっと自分をとり戻す。これで疲れがほぐれるから,身体がもつのだろうと思っている。
ところで今夜のお酒は格別おいしかった。二度と会えると思っていなかったAさんを,10年ぶりに迎えて,杯をくみ交わしながら夜のふけるのも知らず語らいは果てない。はじめは10年のブランクを埋めるお互いの経過報告でいっぱいだったが,それはそのまま,安保70年をも闘えなかった日本の労働運動のふがいなさの嘆きとなり,どうしたらたて直せるだろうかという真剣な討論に発展していった。消息のたえていた10年あまりの間,お互いにどうしているかなァーと思わないではなかったが,ふとしたはずみで再会の機会にめぐまれたところ,思いもかけずともに労働運動をつづけている仲間と知り,驚きかつ喜んだ。持場こそちがえ,2人の女性は,はからずもおなじような気持で生きていたのだから,10年を越す歳月は決して距たりではなく,話はまるで昨日のつづきのようにかみ合った。一升ビンがいつしかへっていくなかで,ヤッちゃんは,“生きていてよかった”としみじみ思った。
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