Hello Nursing・8
陰鬱な英国の秋
姉崎 宜子
1,2
1日赤短大
2東洋大学大学院
pp.80-82
発行日 1970年11月1日
Published Date 1970/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917664
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9月はじめから勤務を開始,中旬には夫が合流し,住居も定まり,英国での“第二の故郷”マンチェスターでの生活は無事スタートをきった。しかし,前に記したように,私が配属きれた人工腎臓室の業務については,看護学生のとき内科学の講義で一度耳にしたような記憶があるだけで,実物に接するのははじめてであった。職場の同僚たちのいうままに,彼らのやっていることをみようみまねでやっていた。同僚には,正しい発音で話す者もいれば,訛の強い英語を話す者もいた。訛の強い英語の説明には,あいづちをうっておいて,あとで人工腎臓についての説明書や文献と首ぴっきになることもしばしばであった。
ともかく,最初の1か月ほどは夢中で過ぎてしまった。ふと時候に気がつくと,昼間がどんどん短かくなりどんよりとした空からときどき雨が降ってくる。いわゆる“ぐずついた天気”の連続である。7月上旬に離日し,日本のむし暑い夏から逃れて,しのぎやすい英国の夏にホッとしていたが,英国の秋が単なる冬への導入部でしかないことを知ると,澄みきった日本晴れの多い日本の秋の美しさが懐しくなった。加えて,N先生一家と離れ,英国社会でひとりだちの生活を始めると,いろいろなことに接し,ときにはつらい思いをすることもあり,日本が恋しくなる。ホーム・シックにかかったのはこの頃であり,給与と職場での人間関係に関して面白くない思いをしたのも,霧のたちこめ始めた晩秋の頃であった。
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