看護婦さんへの手紙
従軍看護婦のこと
山下 肇
1
1東京大学
pp.13
発行日 1965年8月1日
Published Date 1965/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917406
- 有料閲覧
- 文献概要
戦後20年目の夏がめぐってこようとしています。これから看護婦さんになろうとしている方たちは,もう完全にあの戦争中のはげしい空襲や食糧難の体験を知らない世代のお嬢さんたちですね。むしろ,あなた方にとって,戦争のイメージといえば,いま目の前にあるベトナムの戦いのことでしょうし,ミサイルとかポラリスとかいう方が戦争というものを直感させるものであるのかもしれません。そしてそれはまだまだあなた方にとって,「泰平ムード」の中の対岸の火事のようなものであるのかもしれません。
しかし,戦争中に学生からすぐ兵隊にされて辛うじて生き残ることのできた私などの世代にとっては,この20年間に,かつて日本の空に襲いかかってきたものが,やがて次には朝鮮の空に襲いかかり(昭和25年夏),また今度はベトナムへと,次から次にアジア各地へ襲いかかっていて,まだ決して戦争は終ってはいないのだという気がします。ただそれが今は日本の空ではなくなっているにすぎないかのように──。
Copyright © 1965, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.