連載 看護関係の心理・10
退行の心理
小此木 啓吾
1
1慶応義塾大学医学部
pp.1340-1344
発行日 1973年10月1日
Published Date 1973/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916789
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2つの人間観
人間である以上,いつもいつも大人ではいられない.社会性と合理性を保ち,姿勢を正しつづけているわけにはゆかない.ときには,子供返りをして,うちうちのふんい気のなかで,リラックスし,言いたいことも言い,したいこともやって英気を養わねば.気楽に打ちとけ,甘え合う充足感こそ,明日へのエネルギー源だ.こう考える人々が一方にいる.この人々から見れば,四六時中,きちんと大人のままでいつづけ,ちっとも甘えたり,子供返りできない人物は,融通のきかない堅物で,おもしろ味も人間味もないということになる.
ところが,その一方には,人間である以上,いつも,社会性と合理性を保ち,ちょっとやそっとで子供返りなんかしない,むしろそんな耐久力がたいせつだ.人間だから,ときには子供返りするにせよ,それは恥ずべきことであり,好ましいことではない.なんとかして,甘えを克服し,子供返りしないで済むようになるべきだ.そんな人間を理想像にして,刻苦勉励する人々もいる.そして,この人々から見ると,前者つまり子供返り肯定論者は,なんとも俗っぽく,いいかげんで,人格的な強さもないように見える.
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