ともに考える看護論・6
ナイチンゲールの看護覚書き(1)
川上 武
,
川島 みどり
,
平尾 晴江
,
山根 美代子
,
小坂 富美子
pp.760-763
発行日 1972年6月1日
Published Date 1972/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916351
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.その時代的背景と読む態度について
看護覚書きが執筆されたのは,19世紀のほぼ半ばであるが,この時代のイギリスでは,急速な科学の成果の技術化により,紡績・製鉄をはじめ諸工業が盛んとなり,資本主義が台頭した時代である.1821年にはスティンヴンソンがはじめて蒸気機関車を製作し,1830年にはマンチェスター,リバプール間に鉄道が敷設された.ダーウィンの’種の起源’が1857年に生まれ,1864年にはマルクスが,イギリスにあって‘資本論’を上梓した.
モロアの英国史1)によると,世界最強の海軍と,採掘のもっとも容易な炭鉱とを擁しているがゆえに,自由主義的でしかも繁栄への道をたどっていたそのブルジョアジーが,新しい発明をすぐにも利用しようと身構えていたがゆえに,他のどの国民よりも速いテンポで富んでいった’しかし,その反面‘大都市の労働者街における死亡率は依然として恐るべき高率を示し,ロンドンではイースト・エンド(下層民の多く住む市の東部)の死亡率は,ウェスト・エンド(高級の店舗や上流人士の邸宅のある市の西部)の2倍に達し,バースでは上流人士の平均寿命は55歳であるのに労働者のそれは25歳にすぎない’というように,工業の急激な発達に追いつかない都市の衛生状態を頭に入れておかなくてはならない.
Copyright © 1972, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.