看護のための集団力学入門・2
小集団実験とアクシヨン・リサーチ—方法論(1)
岡堂 哲雄
1
1聖路加看護大学
pp.636-643
発行日 1972年5月1日
Published Date 1972/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916325
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人間関係の観察
外来診療所の朝の待合室に,数名の患者が待っている.若い男は週刊誌から目を離さない.中年の紳士は,新聞を広げているが,落ち着かない様子である.その隣に30歳過ぎの和服の婦人がすわっている.誰もことばをかわさない.そこへ,ひとりの老婦人がはいって来た.‘お早ようございます’とあいさつしたが,若い男は知らぬふり,紳士は黙って頭を軽く下げた.いずれも,それ以上のコミュニケーションを好まないようだ.老婦人はことばで答礼してくれた和服の婦人のそばにすわり,この病院のこと,医師のこと,看護婦のことなど彼女に話しかけた.どうやらこの老婦人はこの病院に通いなれているらしいが,もうひとりの婦人ははじめてのようで,老婦人の話に熱心に耳を傾け,うなずき,ときには短かな質問をはさんでいる.新聞を見ていた中年の紳士も,ようやくふたりの会話に興味を示し,聞き耳をたてはじめたようだ.—このような状景は,診療所の待合室に限らず,人びとが集まり出会う所では,しばしば見られることであるし,知り合いという人間関係を含む集団が形成される単純な例である.
このような人間関係の発生を科学的に研究しようとすれば,観察を慎重に行なう必要がある.この待合室の壁にワンサイドミラー(一方視鏡)をはめ込み,その窓から相互作用の展開を観察しながら,ビデオテープレコーダーの助けをかりて録画録音し,記録することもできるだろう.
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