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ずいひつ—ベルリンの入院生活
柏原 兵三
pp.118-119
発行日 1971年5月1日
Published Date 1971/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916037
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もうずいぶん古い話になってしまったが、昭和38年から40年にかけて、私は政府交換留学生として約2年間ベルリンに滞在した。最初は単身赴いたが、7ヵ月後住居を確保してから、妻子を呼び寄せ、家族で生活をした。ところが妻子を呼んで一緒に生活するようになってから2週間と経たないうちに、血尿が出て病院に入ってしまった。あとで腎臓結石と分り、手術する必要もない程の小さい石なので、毎日ビールを多量に飲んで、その勢いで出すという「ビール療法」で無事小さな石は出て、退院できたのだが、最初は腎臓腫瘍の疑いをかけられ、腎臓の片方を全摘出するために、市立病院の泌尿器科に移され、そこで精密な検査の結果腎臓結石と判明するまで、ひどく暗鬱な日を送った。
この話をもとにして私は「小さな石の物語」(新潮社刊)という長篇小説を書いたので、その時のことは大体この小説に盛ったつもりでいるが、その時経験したドイツの入院生活のあらましを、この随筆でもう一度まとめてみたいと思って筆をとった。前半をキリスト教系の病院の内科病棟に2週間、後半を市立モアビット病院というベルリンではもっとも古い病院に属する大病院の泌尿器科病棟に2週間、計4週間入院した。丁度季節のよい4月から5月にかけてのことで、まったくの話病院に閉じこめられている生活は辛かったが、今考えてみると、これ程貴重な体験をしたことはないという気がしている。
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