続MSWの目
老人の不安と淋しさ
中島 さつき
pp.64
発行日 1970年8月1日
Published Date 1970/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914978
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ミセス・ハリングトンの家はシドニーからフェリーにのって15分,海岸沿いの高層ビルの5階にあった。シドニー湾は大きく深く入りくんだ入江が多く,世界で一番美しい港とオーストラリヤ人は自慢する。船着場まで迎えにきた夫人につれられてお宅に行く。南国情緒ゆたかな花が咲き,沈みゆく太陽が海に映えて,まことにかぐわしい初夏の夕暮れどきであった。
マンションの玄関口のポストを開けると,彼女の小さな箱には何も入っていない。“No bodyloves me!(誰も愛しちゃくれない)”とつぶやいた。各階2軒に一つのエレベーターにのって,彼女の家に入る。リビングルーム,寝室,浴室,台所,洗練された家具と調度の小じんまりとした住いで,ベランダから見下す絶景とともにたいへんうらやましい想いだった。
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