声
老人とともに
三宅 智恵子
1
1大阪府泉佐野保健所
pp.65
発行日 1972年1月10日
Published Date 1972/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205021
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〇月〇日 黒雲が低く垂れ込めた冬空のなかを自転車をこぎつつ,きのう連絡のあったAさんの電話を思い浮かべる。"最近老母がボケて,目を放すと外にフラフラとでかける。きょうも溝の中で倒れていた。大小便もわからず手がかかる。どうしたものか"と途方にくれたようす。
薄暗い部屋で老婆は背を丸めて寝ている。自分の世話をしてくれる娘の顔がやっとわかるだけで,自分の年齢も,いまが夏なのか冬なのか季節の区別もできない。このような状態になって5年間。老婆を引き取り世話をしてきたAさん夫婦の苦労を聞いてあげるのがやっとで,貧しい日本の社会保障制度のなかではどこをつついてみても,わずかな援助の方法もなく,ましてこのような状態になった老人をあたたかく受け入れる病院や施設があろうはずがない。手も足もでないやるせなさに襲われた1日であった。
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