今月の考察 心臓移植
心臓移植をめぐる二,三の問題
澤瀉 久敬
1
1大阪大学
pp.77-80
発行日 1968年11月1日
Published Date 1968/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914205
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1心臓移植と人工心臓
生物体と機械の違いの一つは,一方は分裂によって形成され,他方は集合によって製作されるということである。多細胞生物は受精した卵細胞が二細胞,四細胞,八細胞と分裂しながら有機体を形成してゆくのに対して,機械の場合にはまずさまざまな部分があり,それをよせ集めて一つの機械が製作されるのである。そこからして,生物体の部分はいわばその生物のものであるのに対して,機械の部分は別にその機械のもの,その機械だけのもの,というものではない。したがって,もし部分が故障したおりには,別のものと取り換えていっこうさしつかえない。ラジオの真空管がだめになれば,われわれは別の真空管と入れ換える。しかし,生物の場合には,少なくとも厳密には,そのようなことはできないはずである。なぜなら,その部分はどこまでもその生物のものであって,それを他の生物のもので置き換えることはできないからである。
ところが,臓器移植ということは,それをあえて行なおうとするものである。そこに科学の進歩というものがある。けれども,科学の進歩ということを真に言おうとするなら,有機体の一部を他の生物の一部で補おうとすることは中途半端である。なぜなら,科学の真の価値は,全体にせよ部分にせよ,有機体そのものを作ることではなく,同一の機能をもつもの,あるいはそれ以上の機能をもつものを,全く別の材料,別の方法で合成し製造するところにある。
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