患者とともに
病室でのセールス
小林 富美栄
1
1ウェイン大学
pp.44-45
発行日 1965年2月1日
Published Date 1965/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913500
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Mさんの膝の上にある郵便物をみると,熊本県の某薬店からきたものである。脈をはかり終えた私は,“あっ,新聞や雑誌でよくでているあの薬ですね”とその封筒を指さした。Mさんは,“ええ,家内がとり寄せたんですよ”と内容をひき出して広げて下さった。傍にいる奥さんはてれかくしと当惑で目と口が別々にはたらいている表情で私をながめ,やり場のなさそうな手掌をBedの上でもみはじめた。“奥さんの具合がお悪いのですか”という私の問いに,1年のうち半分は,上下肢神経痛や関節の痛みで身体中が責められ,時には身体に浮腫も起り,階段を上る時の息切れはもう寿命も終りかと思う程のこともあるとか,1年中,足腰が冷えるというような話をもう何度もくり返しているようないい振りで話された。“何しろ農業をやるもので仕事がきついですからね。あれこれのみ薬を買ってみるんですが”と最後の試みがその熊本の薬ででもあるかのように私に効能書をさし出された。私はそういう薬もさることながら,綜合的な診断をうけることの大切さを指摘しながら,肝臓疾患で入院しているMさんのところへくる日のもう半日を病院の外来でみてもらうようにすすめた。
いろいろなことを述べたてて奥さんはそれをすることに納得しそうにもなかったが,Mさんの“それでは,○先生にみてもらうか”という決定の一語で“ふうん”とうなづいた。私はこれからときどき奥さんのことも気をつけて話題にのせなければならないと考えた。
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