コール・ランプ
ごくらくとんぼ
批尼苦理狐
pp.96
発行日 1967年3月1日
Published Date 1967/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913090
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Wさんは非常な愛妻家でもある。お会いしたことはないが,2人の子にも恵まれ,こんなダンナさまをお持ちの奥さまはまことに結構なご身分と,羨ましく思うことさえある。
ショッピングが大層好きで,勤めのお帰りには,ちょっと小旅行にでも使えそうなカバンと木綿の大風呂敷いっぱいに,八百屋,乾物屋,肉屋,魚屋などのお買い上げ品をえっさとくるんで両手にぶらさげて歩いていらっしゃる。住居が新開地らしいので,日常の買物に不便なのはわかるが,それにしても1日の勤めで疲れるだろうに,なおこれだけの思いやりは大変なサービスと,ほとほと感心する。いくらお子さまに手がかかるとはいえ,奥さまはいったい1日中何をしてお過しなのかと,ついよけいな心配までしたくなる。いつかもパン屋のタタキの上に大風呂敷を広げ,どっかとしゃがみこんで何やら包みを開いている姿を見受け,こちらがあわてて目をそらしてやり過ぎたことがある。本人はいたって平気なもの,時々デパートの特価品売場ものぞくらしく,一金○○円也で色とりどりのブラウスも買いこんできたり,かと思うと,また靴を一時に2,3足大切そうにかかえこんできたりする。もちろん全部奥さまの品物ばかり。それをまたうれしそうにあちこちご披露に及ぶのである。「家内にはこんな色が似合う」とか「家内の靴の踵がすっかり,いたんでしまってね,これは買物用,これは外出用」などと。
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