「精神医学」への手紙
Letter—Schneiderの一級症状をめぐって—「ごく控えめに」か「間違いなく」か
佐藤 裕史
1
1日本大学医学部精神神経科学教室
pp.1216
発行日 1992年11月15日
Published Date 1992/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904965
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DSM-Ⅲ-Rの精神分裂病の診断基準がSchneiderの一級症状を重視し,従来の米国の力動的精神医学から記述現象学的な診断に重点の移った観のあることはかねてより指摘されている。日本では戦前からの伝統に従い,精神医学の教科書にはDSMやICDと共に今も一級症状が記載され,医学生にとっては試験の「ヤマ」であり続け,精神科の研修医は今も『臨床精神病理学』を読んでいる。
このようにこの偉大な精神病理学者の分裂病論はその輝きを保っているが,件の一級症状を邦訳1)でみると,「このような体験様式がまちがいなく存在し,身体の基礎疾患が何も発見されない場合に,我々は臨床的に,ごく控えめに,分裂病だということができよう」とある。ドイツ留学経験のある精神科医が「一級症状がすべて揃っても分裂病の診断は『ごく控えめに』できるのみであると原著にあり,決して必要十分条件ではない」と言うのを筆者は聞いたことがある。では,一級症状には従来信じられているほど疾病特異性はないのだろうか。原著の該当する箇所2)は,“sprechen wir klinisch in aller Bescheidenheit von Schizophrenie.”となっている。この“in aller Bescheidenheit”は,辞書ではwith all due modesty,「いくら遠慮しなくてはならないとしてもやはり」とあり,数人の独文学者の意見でも,一級症状が揃えばまず分裂病に間違いないと原著者は考えていたように読める。すなわち,今日の再評価通り,当初より一級症状の特異性は重視されていたと思われるのだが,どうだろうか。
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