ポイント
閉ざされた世界より想う
二木 シズヱ
1
1一宮市民病院
pp.101
発行日 1966年2月1日
Published Date 1966/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912645
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給料日は勤務者以外何時もつれだって,おいしいものを食べにゆくことが,私たちの病棟の月の行事になってしまった。鍋焼うどんで気持よく身体も心も温まった私たちは,門限までにはまだかなりの時間のあるにまかせて,冬の星空の下をそれぞれのおもいにふけりながら,かっぽしていた。
突然太い怒声が私たちの耳をつんざいた。私たちは反射的に足をとめ,声のとんでくる方向をいっせいにみつめた。オートバイの若者が,低い声で腰をかがめ,ボソボソといいわけをしている姿と,制服の警官の声高な姿勢が,目の中に飛び込んできた。特別のできごととも思えぬ風景ではあるが,ほのぼのとした気持で語らいながら歩いていた私たちには,冷水を顔にぶつけられた驚きと空しさが,私たちのささやかな幸福を破ってしまった。警官と市民,看護婦と患者,その関係はどこかに共通する職業倫理があり,問題点も悩みも,社会的地位も,よく似かよっている。警官と看護婦に対するイメージは同じくらい悪く,ゆがめられた姿で,市民の眼にうつっていることが度々ある。看護婦が患者になって,よその病院の門をくぐると,行き届いた態度で温かく接してくれる看護婦さんにあうと,涙が出てくるほど嬉しく,言葉遺いも礼儀もわきまえぬ無礼な人にあう時,社会の悪評の一端をその看護婦から知らされる。
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