社会病理と精神衛生・11
現代社会と迷信
高木 隆郎
1
1京都大学医学部精神科
pp.52-55
発行日 1964年7月1日
Published Date 1964/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912300
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1.科学と迷信
現代建築学の最高の頭脳を集めた鉄筋のビルの起工にあたって,まず行なわれるのは,工事の安全と将来の発展を祈って,地鎮祭という,一種のマジナイが真面目くさって行なわれる。世界に誇ると称する高速自動車道路の着工も,建設大臣臨席のうえ,神主の祝詞(のりと)をきいて鍬入れ式をしてからでないと,施工者は気がすまぬもののようである。そしてその道路を走る自動車には,どれもこれも,交通安全の成田山のお守りがついている。これらの厄除けが,本来,宗教的な信仰に属するのか,あるいはいわゆる迷信に属するのか,機械的に断定するのは困難であろう。というのは,それはむしろ,当事者の主観によるといった方が適切に思えるからである。だが,いずれにせよ,ここでは,そうした議論にそれるゆとりはない。ただ,こうした“厄除け”の効果は,現代の科学的因果関係からはあまり意味がない,というよりむしろ矛盾することだけは確かであるといっておこう。
しかし,施工主や運転者たちは,何か悪いことでも起こってはという不安があり,そうした〈しきたり〉に従うことによって,ある程度の—よし一時の気休めであっても—安堵をうるのであって,これは理屈の問題でなく,感情の問題である。
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