特集 医療制度とその盲点(Ⅱ)
迷信及び新興宗教と医療
日野 壽一
1
1東京大学医学部物療内科
pp.41-46
発行日 1955年4月15日
Published Date 1955/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201550
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たわいない迷信が適正な医療を妨げていることは周知の事実である。また一部の新興宗教が「神は絶対である。神に任せきれ。人間どもの猿智恵ででつち上げた医学などに頼るのは神に背くことである。」といつて,現代医学的診療を拒む実例があまりにも多い。その極端な場合だけが国民医療法違反として軽い処罰を受けるとか,時には傷害致死事件として,新聞ラジオの批判を受け,刑事問題の対象となるにすぎない。しかし宗教教師たちは,これは予期した法難であると称して,逆に布教宣伝に利用し,ますます善男善女を狂信に駆りたてることを怠らない。政府機関がかかる布教宣伝を取締ろうとすれば,その前には,手離しの信教の自由を保証した憲法第二十条が厳然と立ちふさがつている。微にいり細をうがつて精密に規定された諸医療制度,健康保健法その他で,医者は手も足もでないように窮屈に縛り上げられているのに対し,事ひとたび"信仰"といえば,何とマア寛大であるのであろうか。医療と信仰の対立に対してすでに国家意志にかくも大きいへだたりがあるのである。
それはともかくとして,迷信や一部の新興宗教によつて,常識的に見て不合理と思われる健康上生命上の好ましくない事件が跡を絶たないのは,これを取締る医療制度に不備な点があるのではないか,あるとすればどうすればよいか,というので特集"医療制度とその盲点"の一環として,私に上記の題が与えられたものと思う。
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