ポイント
伝達の悪徳
二木 シヅヱ
pp.65
発行日 1964年4月1日
Published Date 1964/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912216
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下宿をしている階下のお嬢さんが,《おばちゃん,お電話よ》と,涼しそうな声をだして,朝寝ぼうな私をおこしてくれた。時間をみると9時。ガウンをひっかけて,急いで受話器をとり上げながら,かたわらにたっている7つの女の子の手前片手で乱れた髪をなでおろし,目顔で《おはよう》と挨拶をおくる。電話は,ある病院の内科で働く友だちから,私の原稿に関しての心配事であった。帰国後,時間のあるのにまかせ,読書と原稿書きに専念していた私は,でき上がった原稿をあるところにおくった。
ひとつはよいが,ひとつは日本語の使い方がまずいと返されて来た。しかし今朝の電話の内容では友だちの働いている病院の総婦長から,そのひとつのよいほうの原稿も返されたと,彼女に話しがあったとか。まったく以外な方向から,私の原稿のことが聞こえてきたものだ。一面識もない,病院の総婦長さんが,私のことについて,私と会って話した人たちを呼びだして,《話の内容は何か。あの人はこのような人だ》と,悪意をもって話すとか。《ああ,また日本の看護界にかえって来た》少々うんざりするが,別に驚きもしない。こんな出来事は,日常茶飯時。頭を下からもたげれば,いくらでもおこる。
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