看護婦さんへの手紙
片すみの問題としないこと
十返 千鶴子
pp.9
発行日 1964年4月1日
Published Date 1964/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912201
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東京の板橋にある「整肢療護園」で10人の看護婦さんが退職し,その補充がつかないために,病舎を一つ閉鎖しなければならないということが,さいきんの新聞にでていた。これを読みながら私は,とうとう看護婦さんの問題も,行きつくところまで行ってしまったという気持がした。と同時に,ここまで深刻な問題として新聞も大きく取りあつかい,これによって,一般社会の関心が,看護婦さんの職業にまで広く深く行きとどくことでなんとか新しい発展が望めやしないだろうかという気もしたのである。
というのは,私はいままで長い間あまりにも健康で病院にも縁がなく,したがって,看護婦さんにも接したことがなかった。ところが昨年亡くなつた夫につきそつて,長い病院生活をして,はじめて看護婦さんの人格やその仕事の内容を,まざまざとこの目でみ体で味わったわけなのである。そうしてつくづく思ったことは,「いまどきの若い娘さんで,よくもこのような恵まれぬ環境に堪えて,奉仕の仕事をつづけていられるものだ」という実感であった。戦後の教育をうけた若い娘さんが,口紅ひとつつけず化粧もせず,個性という個性を白衣のユニホームのなかに包みかくして,ひたすら病人に愛を捧げ医師の手助けとなって働いている。それが私には驚異でもあり意外でもあったのである。それほど一般の社会の人々にとっては,看護婦さんは目のとどかぬ存在でありすぎるのではないだろうか。
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