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脳ドックが人々の間で一般的なものになり、いわゆる無症候性脳血管障害についての相談を受けることが珍しくなくなってきた.これは一方ではhelical CTやMRI撮像法などhard, soft両面での診断技法の進歩,他方では高齢人口の増加とともに目立ってきた痴呆にだけはなりたくない,早めに予防できないかという人々の切実な願いにもよるのであろう.ところで,脳ドックを受けようとする人は健康人である.検査で何がわかり何が分からないのか限界を知り,もし異常が発見された場合にはどのような対処の方法があるのか知り,十分検討する時間的ゆとりがあり,それらを承知した上で,つまり十分なインフォームド・コンセントが成り立ったうえで検査を受けているはずである.病院の説明書をみてもその辺のことは十分に記載されている.ところが,たとえば未破裂動脈瘤が発見されて脳血管撮影や手術を勧められたがどうしたものかといって,second opinionを求めて来院するcaseは決して少なくない.その中にはどうしても不安でしかたがないという人がかなりあり,なぜなのかよく聞いてみると説明書は読んだし十分説明も受けたが,自分には関係ないだろう,自分は健康だからそれを証明してもらうために検査を受けたといった答えが返ってくる。
時間的ゆとりのある場合でもこうであるから,ましてや緊急の場面では医療情報がどれくらい正しく患者さんやその家族に伝わっているのか,はなはだ心配になってくる。京都大学総合診療部の福井次矢教授は,医療情報伝達についての講演の中で,患者に医療情報を正しく伝えることの難しさに言及し「外来診療後10〜80分の時点で,患者は伝えられた情報の40%の内容しか思い出せない,それから,60%の患者は聞いた内容を誤って理解しているという報告がある」と述べている1).
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